「耐震補強って、いくらかかりますか」
そう聞かれたとき、正直にお答えすると「家を見ないと分かりません」になってしまいます。逃げているように聞こえますよね。
でも、これには理由があるんです。同じ築50年でも、100万円で収まる家と、1000万円を超える家があります。
分かれ目は築年数ではありません。基礎と、雨漏りと、シロアリ。この3つがどうなっているかで決まります。
この記事でわかること
- 耐震補強の費用の目安(数字は2つに分けて考えます)
- お金が跳ね上がるのはどこか
- 築年数で何が変わるか。1981年と2000年、2本の線
- 補強するか、建て替えるかの分かれ目
- 制震ダンパーの後付けについて、正直なところ
- 補助金は、順番を間違えると使えないこと
金額の前に、家の状態を見ないと始まりません
うちの場合、まずやるのは床下と屋根裏に入ることです。図面が残っていないお宅も多いので、図面を復元するところから始めることもあります。
これは一般診断のイメージですね。耐震診断そのものが目的のご依頼であれば、外部の専門機関にお願いしています。
実を言うと、「耐震補強だけをやってほしい」というご相談は、そう多くありません。
多いのは、間取りを変えたい、水まわりを直したいという話のついでに「耐震も見てほしい」というパターンです。
そして床下に潜ってみると、基礎の状態やシロアリの被害、雨漏りによる構造の傷みが見つかる。そこから話が大きくなっていきます。
費用の目安は、2つに分けて考えてください
数字が混ざると、まったく話が合わなくなります。
耐震補強だけを目的にするなら、100〜300万円くらい。壁を足して、基礎を補強して、というイメージです。基礎の面積が広ければ、もう少しかかります。
一方、築40〜50年を超えた家で、基礎やシロアリ、雨漏りの問題が出てきた場合。大掛かりな改修と一緒に、基礎補強・構造の一部入れ替え・屋根工事まで含めると、500〜1500万円くらいの規模になることが多いです。
家が大きい、直す範囲が広い。条件が重なると、2000万円を超えることもあります。
世の中のデータとも並べておきますね。木造住宅の耐震補強は100〜250万円程度、平均は160万円台という調査があります。耐震診断は10万円程度が目安とされています(2026年時点)。
ただ、正直に申し上げると、この振れ幅は本当に大きいです。昔の家は今より床面積が大きいこともあって、同じ工事でも金額が変わります。数字はあくまで参考程度に見てください。
お金が跳ねるのは、どこか
効いてくるのは、だいたい3つです。屋根まわり、基礎、それと壁の配置。
昔の家は、そもそも壁が少ないことが多いんです。開放的で気持ちはいいのですが、地震には弱い。ここに壁を足すのは、費用のわりに効果が出やすい工事だと思います。
屋根は「軽くする」という話をよく聞きますよね。ただ現場で本当に大事なのは、別のことだったりします。
雨漏りで構造がダメージを受けている場合は、それを止めるための屋根工事のほうが先です。原因を残したまま補強しても、また同じところが傷みます。
基礎は、床下にシロアリの被害が出ていると話が変わります。下から支え直す必要があるので、基礎補強が必須になります。
では、そもそもどこから傷むのか。基礎まわりか、防水関係(屋根・外壁・バルコニーからの雨漏り)が多い印象です。
シロアリについては、思っていたより被害に遭っているお宅があります。その場合は消毒処理に加えて、シロアリが入りにくくなる工事をご提案しています。基礎の湿気対策、基礎の打ちまし、雨の侵入があるなら防水の見直しですね。
このあたりは新築のときの考え方が土台になります。足元をどう守るかは基礎・防蟻処理・点検のしやすさをまとめた記事に書きました。
築年数で、話がまるごと変わります
現場の実感からお話しします。
築30年くらいなら、そこそこ状態が良いお宅が多いです。ところが築50年になると、かなり傷んでいる建物が増えます。
内装はどうにでもなるのですが、外まわり——屋根、外壁、基礎——のダメージが大きいんですね。
法律の面では、線が2本あります。1981年6月に新耐震基準になり、木造はさらに2000年6月に基準が見直されました(壁のバランス、接合部の金物、地盤に応じた基礎など)。
気をつけていただきたいのが、この1981年から2000年のあいだに建った木造住宅です。「新耐震だから大丈夫」と思われがちなのですが、この時期の建物には震度6強で倒壊するおそれのあるものが多いという調査もあります(2026年時点)。
築25年から45年くらいの家が、ちょうどここに当たります。
ただ、最後にお伝えしたいのは別のことです。年数以上に効いてくるのは、手入れがされてきたかどうかと、メンテナンスがかかりにくい設計かどうかでした。
陶器系の瓦が載っている。軒が深い。床下がカラッとしている。こういう家は、築年数のわりに驚くほど状態がいいんです。
軒については軒の出が家を長持ちさせる話をまとめた記事で詳しく書いています。
補強するか、建て替えるか
ここが一番の分かれ目です。
建て替えをお勧めするのは、こんなときです。床下のシロアリ被害がひどい場合。雨漏りで構造のダメージが大きい場合。
それと、意外に思われるかもしれませんが、家が建っている場所そのものが低くなっていて、普段の雨でもジメジメしてしまうようなお宅です。
これは補強では解決できません。建物の高さを変えるには、建て替えるしかないんです。
もうひとつ、費用からの分かれ目もあります。
ほぼ全面リフォームになって、そのうえ家の状態が悪いと、新築の7〜8割くらいの費用がかかることがあります。
ここまで来ると、どちらが良いとは一概に言えません。そういうときは両方のメリットとデメリットをお伝えして、判断していただくようにしています。
| 耐震補強 | 建て替え | |
|---|---|---|
| 直せる範囲 | 傷んだ壁・基礎・屋根 | 間取りも、建物の高さも |
| 直せないもの | 建物の高さ、敷地の低さ | ― |
| 住み慣れた家 | 残せる | 残らない |
| 費用の目安 | 補強だけなら100〜300万円 | 全面改修が新築の7〜8割になることも |
| 向いているのは | 外まわりの傷みが限定的な家 | 床下や躯体のダメージが深い家 |
⚠️ 決める前に、並べて見てください
建て替えなら、間取りも高さもやり直せます。ただ、住み慣れた家そのものは残りません。補強なら費用は抑えられますが、直せない部分は残ったままになります。金額だけで決められる話ではないので、両方の見積もりを並べてから考えてみてください。
制震ダンパーの後付けについて、正直なところ
制震ダンパーには、リフォームで使える製品もあります。うちでもご提案することがあります。
費用は種類によりますが、壁を剥がして取り付ける工事になるので、最低でも50万円くらいは見ておいたほうがいいと思います(内容によって変わります)。
効果については、正直にお話しします。
メーカーの実験や、被災地での実績を見ると、効果があったという事例はあるようです。なので「効果はありそうだ」という認識でいます。
ただ、うちが取り付けた家が大きな地震に遭った経験は、まだありません。最終的にどうなのかは、私にも分からないというのが本当のところです。
新築で入れるかどうかの考え方は制震ダンパーは必要かを整理した記事のほうに書きました。
補助金は、順番を間違えると使えません
会社として使ったことはあります。ただ、もらえるかどうかはケースによって変わります。
いちばん気をつけていただきたいのは順番です。
工事に着手する前の申請と許可が、基本のルールになっています。先に工事を始めてしまうと、あとから申請しても通りません。
しかも、報告の内容や必要な書類は自治体ごとに違います。お住まいの地域のものを、ひとつずつ確認する必要があります。
手続き自体は、業者側がきちんとやればもらえるものです。ただ、急いで工事をしたい方には、補助金を使った工事は向かないかもしれません。
まず、何から始めればいいか
最初にやることは、見積もりを取ることではありません。床下と屋根裏を見てもらうことです。
金額は、そこで見つかったもので決まります。基礎、雨漏り、シロアリ。この3つの状態を知らないままだと、出てきた見積もりが高いのか安いのかも判断できませんよね。
耐震補強は、どこまでやるかで金額が大きく変わります。1社だけで決めてしまうと、その金額が高いのか妥当なのかが分かりません。一括見積もりサービスを使うと、お住まいの地域の相場感が手軽につかめます。
よくある質問
Q1. 耐震診断は、必ず受けないといけませんか?
補助金を使う場合は、正式な診断が条件になっていることが多いです。まずは床下と屋根裏を見てもらって、必要ならそこから専門機関の診断へ、という順番が現実的だと思います。
Q2. 耐震補強だけをお願いすることはできますか?
できます。ただ実際のご相談は「間取りを変えるついでに耐震も」というケースがほとんどです。壁を開けるタイミングが重なるので、そのほうが工事としては無駄がありません。
Q3. 築30年ですが、新耐震だから大丈夫ですよね?
築30年ですと1996年前後。新耐震ではありますが、2000年の見直しより前の建物になります。壁のバランスや接合部の金物は、今の基準とは違います。一度見てもらう価値はあると思います。
Q4. 補助金を使いながら、急ぎで工事することはできますか?
難しいと思っておいたほうがいいです。着工前の申請と許可が基本ルールなので、その期間を見込めないようであれば、補助金なしで進める判断になります。
おわりに
耐震補強のご相談を受けていて、いつも思うことがあります。
状態のいい家には、共通点があるんです。軒が深い。屋根が瓦。床下が乾いている。派手さはないけれど、雨と湿気から家を守る作りになっている。
そういう家は、30年経っても40年経っても、直すところが少なくて済みます。
もし今、古いお家の補強を考えていらっしゃるなら、直したあと次の30年をどう守るかまで、一緒に相談してみてください。同じお金でも、その先が変わってきます。

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