家づくりの広告を見ていると、最近よく目にする言葉があります。
「高耐久サイディング」「メンテナンスフリー」「30年保証」——どれも、家を建てる方にとっては安心感のある言葉ですね。
でも、ここでひとつ立ち止まって考えてみてほしいことがあります。
日本には、何百年も建ち続けている神社や仏閣がたくさんあります。これらの建物は、現代の高耐久素材を使っていません。それなのに、なぜそんなに長く保っているのでしょうか?
答えのひとつが、軒の出(のきので)にあります。
今回は、長持ちする家を設計する上で欠かせない「軒の出」という視点について、お伝えしていきますね。
長持ちにさせるには色々な考え方がありますが、軒の出に注目した一つの考え方なので、ぜひ参考にしてください。
神社仏閣に学ぶ「軒の出」の知恵
古い神社や仏閣を思い浮かべてみてください。
屋根が、建物の壁面よりずっと外側まで張り出している姿を、一度は見たことがあるはずです。
たとえば、世界最古の木造建築といわれる法隆寺。建てられてから1300年以上経った今でも、その構造はしっかりと残っています。
こうした古い建築には、共通する特徴があります。
屋根の軒が、深く・大きく張り出しているということです。
これは見た目を整えるためのデザインではありません。
雨や日差しを建物の壁・柱・木材に直接当てないようにする——つまり「構造そのものを物理的に守る」ための設計だからこそ、何百年もの時を超えて建ち続けているんです。
昔の大工さんたちは、素材の進化を頼ることができませんでした。だからこそ、設計の力で建物を長持ちさせる知恵が、長い時間をかけて磨かれてきたんですね。
現代の住宅は「素材で守る」発想に偏っているのでは?
一方、現代の住宅はどうでしょうか。
「高耐久サイディング」「メンテナンスフリー塗料」「30年保証の外壁」——カタログには、長く保つことをうたった素材がずらりと並びます。
そして同時に、最近の家づくりではこんな傾向もあります。
・軒をほぼ出さない、シャープなデザインの家が増えている
・コスト削減のために軒を短くする設計が標準化している
・敷地の制約で、軒を伸ばせないまま設計が進んでいる
つまり、「素材が守ってくれるから、軒は短くてもいい。デザイン重視でよい」という前提で家が建てられている傾向にあります。
更に、軒の出は長くすればそれだけコストもかかり、価格が高くなってしまうのも軒が短くなっている要因の一つともいえます。
これは、何百年もの時間をかけて磨かれてきた「設計で守る」という知恵から、家づくりが少し離れてきていると思います。
外壁素材だけで家を風雨から守ることの限界
ここで、知っておいてほしい大切な事実があります。
どんなに高耐久な素材でも、素材だけで家を守りきることはできないということです。
理由はいくつかあります。
施工の不備は、素材スペックでは防げない
外壁のジョイントや、シーリング部分の施工が不十分だと、そこから雨水が入り込みます。素材自体の耐久性とは別の問題ですね。もちろん、施工がしっかりできているケースがほとんどだと思いますが、それでも、ジョイント部分やシーリング部分の劣化は必ず進み、一定のタイミングで補修できない場合は、そこから雨水が入り込む可能性が十分にあります。
紫外線・雨風が直接あたり続ければ、必ず劣化する
カタログでうたわれる耐久年数は、あくまで「条件のよい状態」での目安です。常に強い日差しと雨にさらされる場所では、その通りにはいきません。耐久年数についても、塗膜の褪色、色褪せに対しての表記がほとんどなので、塗膜自体の保証とは違う点も注意が必要です。
立地条件によってカタログ値通りにいかない
過去の記事でも触れた通り、北面の壁や風当たりの強い面は、カタログ値より早く劣化することがあります。
つまり、素材のスペックを上げるだけでは、外壁や構造材の劣化は完全には防げないのです。
軒の出は、家を守る”最初の防御線”
ここまで読んでくださった方は、もう感じているかもしれません。
家を本当に長持ちさせるには、「素材で守る」より前に「設計で守る」ことが大切なのです。
そして、設計で家を守るための最も効果的な方法が、軒の出を十分に取ることです。
軒があるだけで、
・外壁にあたる雨の量が大幅に減る
・直射日光による紫外線の影響も抑えられる
・結果として、外壁だけでなく、その奥にある構造材まで守られる
雨と日差しを物理的にカットしてくれる軒は、まさに家を守る最初の防御線なんですね。
軒の出は、どのくらいあればいいのか
私の感覚では、軒の出は最低でも90cm程度はほしいと考えています。
90cmあると、外壁にあたる雨の量がぐっと減ります。可能であれば、それ以上伸ばせると理想的です。もちろん、敷地条件や建物全体のバランスもあるので、ただ長ければいいという話ではありませんが、「できる限り出す」を基本姿勢にしてほしいというのが私の考えです。
最近は「軒ゼロ住宅」という言葉まで出てきていますが、家を長持ちさせたい、という視点から見た場合は、私はおすすめしていません。
定期的に点検や補修、塗替え等にコストをかけることができれば問題はないのですが、10年後、20年後に生活に余裕がなくて、お金をかけることができない可能性は十分あります。
外壁メンテナンスができなくても安心して暮らせるように、設計で家を守ることがとても大事です。
なぜ現代の家は軒が短くなったのか
軒の出は、設計の段階でいちばん削られやすい部分でもあります。
理由はいくつかあります。
・デザインの流行:シャープでモダンな外観に見せたい
・コスト削減:軒を出すには、屋根の構造や材料が増える
・敷地の制約:都市部では軒を出せない条件のところもある
どれも理解できる事情ですが、それでもひとつだけ覚えておいてほしいのは、軒を削るという選択は、50年、100年と保つ可能性のある家を10〜20年で傷ませることにつながりかねないということです。
これから家を建てる方は、ぜひ設計の最初の段階で「軒をどれだけ出せますか?」と聞いてみてください。敷地の条件次第や、コストも掛かりますが、それ以上に軒を深く出すことでのメリットは大きいと思っています。
おわりに
家の長持ちは、素材選びの前に設計の知恵から始まります。
何百年と保ち続けてきた神社や仏閣が、私たちに教えてくれるのは、こういうことです。
「家を守る一番最初の手段は、雨と日差しから物理的に守ること」
そしてもうひとつ。実は軒の出には、家を長持ちさせるだけでなく、夏の暑さから家と暮らしを守るという大切な役割もあります。
昔の家で「よしず」や「すだれ」を吊って日差しを遮っていたのと同じように、深い軒は夏の強い日差しが室内に入るのを防いでくれるんです。これが室温のコントロールにも大きく影響するのですが——その話は、また別の記事で詳しくお伝えしますね。
これから家づくりやリフォームをされる方の、参考になれば嬉しいです。


コメント