「災害に強い家にしたい」というご相談は、年々増えています。
ただ、「では、どう備えましょうか」とお聞きすると、多くの方が”家そのものを頑丈にすること”を思い浮かべられるんですよね。耐震等級を上げて、頑丈な屋根にして、シャッターも付けて——もちろん、どれも間違いではありません。
でも、現場でいくつもの家を見てきて思うのは、災害対策には考える順番がある、ということなんです。私自身は「①まず土地で避ける → ②設計で身の丈に備える → ③最後の砦は保険」という順番で考えています。
家を売る立場だと、どうしても土地と保険の話は後回しになりがちです。だからこそ今日は、その逆の順番で、現実的なところをお話しさせてくださいね。
災害対策は、土地でほとんど決まる
少し身もふたもない話なのですが、どれだけ頑丈な家を建てても、土地そのもののリスクが高ければ、守りきるのは難しくなります。
ですから、土地を見るときは必ずハザードマップを確認します。お住まいの自治体が出しているものに加えて、国土地理院の「ハザードマップポータルサイト」を見ると、洪水の浸水想定や土砂災害、地盤の弱さを、一枚の地図に重ねて確認できます。
土地を検討している段階なら、ここは必ず覗いてほしいところです。
ただ、ひとつ気をつけたいことがあります。ハザードマップで浸水想定エリアに入っていても、実際の浸水リスクとぴったり一致するわけではないんです。
あの想定は「最大級の雨が降ったら」という前提で描かれているので、少し大げさに見えることもあります。
大事なのは、その土地が過去に実際どうだったか、なんですね。本当に浸水した記録があるのか、まわりより低い土地なのか。
そういう”実態”まで調べると、判断の精度がぐっと上がります。土地そのものの見方は土地の広さ・形・道路付け・日当たりをまとめた記事でも詳しく触れています。
地元の方や役所、昔からその地域を見てきた住宅会社に聞いてみるのが、いちばんの近道です。
水害には「土地のかさ上げ」が地味に効く
浸水しやすい土地に建てるなら、建物の足元を少し上げておくのが、現実的で効果のある備えです。
幸い、私の関わった物件で、大きな浸水被害に遭ったことはまだありません。ただ、以前こんなことがありました。
水はけのあまり良くない土地に建てることになったとき、念のため建物まわりの地面を30〜50cmほど上げておいたんです。正直、そこまでする必要があるかなぁ…という気持ちも、少しありました。
でも、その後の大雨でまわりが水に浸かったとき、ちょうどその数十センチが効いて、建物は浸水をまぬがれたんですね。あのとき上げておいて良かった、と胸をなでおろしました。
たった数十センチ、と思うかもしれません。でも、床上に水が入るか入らないかは、本当にこの差で決まることが多いんです。
浸水想定のある地域で建てるなら、実際の浸水実態を調べたうえで、盛土や基礎の高さである程度カバーしておくと安心です。「実態はどう調べるの?」という方のために、調べ方から盛土の費用感までをハザードマップで色がついた土地の判断軸で整理しました。候補地の色に迷ったらのぞいてみてください。
地盤の弱い土地で必要になる地盤改良の費用は、地盤改良の相場とからくりをまとめた記事で詳しく取り上げていますので、よかったらチェックしてみてくださいね。
それから、水害との相性でいうと平屋は特に注意が必要です。2階に逃げるという選択肢がないぶん、土地選びの段階での見極めがより重みを持つんですね。平屋を検討中の方には、浸水実績の確かめ方まで含めて平屋で後悔する人・しない人の違いで詳しくお話ししています。
台風で「実際に弱るところ」は決まっている
台風対策というと、つい屋根や窓の大がかりな話になりがちです。でも、現場で本当に傷みやすい場所は、ある程度決まっているんです。
ひとつは雨樋です。新築のうちは何ともなくても、年数が経つと雨樋を留めている金具が少しずつ弱ってきて、台風の強い風でズレてしまうことがあります。
もうひとつは窓。台風のときに飛来物が当たって、窓ガラスが割れてしまう被害が、ときどき出ます。
この「窓が割れる」というのが、実はあなどれないんです。窓が割れて家の中に一気に風が入り込むと、その圧力で屋根が下から押し上げられて、飛んでしまうことがあるからです。
だから、台風のときに雨戸やシャッターを閉めて窓を守ることは、めぐりめぐって屋根を守ることにもつながるんですね。
一方で、停電のほうは、そこまで神経質にならなくていいと考えています。日本は電気の復旧がとても早いので、台風の停電で暮らしが長く立ち行かなくなった、という話は、私のまわりではあまり聞かないんです。
地震は「屋根の重さ」と建てた年代がものを言う
地震については、詳しい耐震の話は耐震等級と家の仕組みをまとめた記事に譲りますが、現場の実感をひとつだけ。
昔の基準で重い瓦屋根を載せている家は、地震のときに瓦が少しズレた、という話を聞くことがあります。屋根が重いほど、揺れたときに建物の上のほうが大きく振られやすいんですね。
今は瓦の留め方もずいぶん進化していて、2022年からは、新築の瓦屋根を一枚一枚しっかり固定することが義務づけられました(2022年時点)。
ですから、これから建てる方が過度に心配する必要はありません。気にかけてほしいのはむしろ古いお住まいのほうで、台風点検のついでに、瓦屋根の状態も一度見ておくと安心です。
ここが本音——「お金をかけすぎない」のも災害対策
ここまで備えの話をしてきましたが、設計者として一番お伝えしたいのは、もしかすると「災害対策にお金をかけすぎないこと」かもしれません。
たとえば、蓄電池。「災害のときに電気が使えるから」という理由で入れる方が、最近とても増えています。お気持ちはよくわかるんです。
でも、本当に災害のときどこまで役に立つのか、そしてそれ以上にかかる費用を回収できるのか——ここは、いちど冷静に考えてみてほしいところなんですね。
「光熱費で元が取れますよ」という説明に乗ってしまう前に、自分の暮らしに本当に必要かを、立ち止まって見つめてほしいんです。太陽光や蓄電池の将来コストについては、太陽光発電を屋根とメンテの視点で考えた記事でも正直にお伝えしています。
シャッターも似ています。防災のために絶対必要かと聞かれると、私は”好みの範囲”だと思っています。
もちろん飛来物から窓を守ってくれますし、防犯のために付ける方もいます。それはそれで立派な理由です。
ただ、「防災だから」と気負って、高い費用を無理にかける必要はないと思うんですよね。
災害対策は、お金をかければかけるほど安心が増える、というものではないんです。
リスクの低い土地を選んで、傷みやすいところを基本どおり押さえておけば、たいていは十分。そして残りは、次にお話しする「保険」でカバーする。
これが、いちばん現実的なバランスだと思います。
最後の砦は、やっぱり保険
どれだけ丁寧に備えても、自然災害をゼロにすることはできません。だからこそ、最後の砦になるのが火災保険と地震保険です。
火災保険は、その名前から「火事のための保険」と思われがちです。でも実は、守備範囲がかなり広いんですね。
台風や雹、落雷による被害も対象になることが多く、使える場面は意外とたくさんあります。火災保険が「降りる・降りない」の線引きは、火災保険が降りないのはどんな時かをまとめた記事で詳しくお話ししています。
印象に残っているのが、少し前にあった「もらい火」のケースです。当社で建てて8年ほどのお宅だったのですが、ある日、敷地の外にある隣の倉庫から火が出てしまいまして。
距離は10m以上離れていたので、まさか自分の家にまで被害が及ぶとは、ご家族も思っていなかったそうです。
ところが、その倉庫がかなりの勢いで燃えたんですね。直接火が移ったわけでもないのに、熱だけで雨樋が変形して、窓枠が傷み、ペアガラスの外側のガラスにヒビが入り、外壁まで変色してしまいました。
火が来ていないのに、熱だけでここまでやられるのか、と私も少し驚いたのを覚えています。
修理の見積もりは、外壁の補修、窓と窓枠の交換、雨樋の直しを、足場代まで含めて場所ごとに出して、合計で150〜200万円ほど。けっこうな金額ですよね。
でも、これがまるごと火災保険でまかなえたんです。「自分の家さえ燃えなければ関係ない」と思われがちですが、実際はこういう”もらい事故”でもしっかり使えます。
知っているかどうかで、いざというときの安心感が、ずいぶん変わってきます。
そしてもうひとつ。土地のリスクと保険は、セットで考えるのがコツです。
たとえば、水災(水害)の補償。これを付けると、保険料が1.5倍くらいに上がることがあります(2026年時点)。
ハザードマップ的に水害リスクのある土地なら、ぜひ付けておきたいところです。でも、リスクがほとんどなさそうな土地であれば、補償の内容をよく見て、本当に必要かを検討する余地もあります。
逆に、リスクのある土地でうっかり外してしまうと、いざというときに「降りなかった」ということになりかねません。
地震保険についても、ひとこと添えておきますね。地震・噴火・津波による被害は、火災保険では補償されません。
これらに備えられるのは地震保険だけで、しかもその地震保険は、火災保険にセットでしか入れないしくみになっています。
このあたりは、住んでいる土地のリスクと、今の保険の中身を一度ならべて見比べて、抜けや無駄がないかを確認しておくのがおすすめです。
いくつかの保険会社の内容をまとめて見比べてみると、自分の土地に合った守り方が、自然と見えてきます。
「うちの土地のリスクに、今の保険は合っているのかな?」と気になった方は、いちど複数の保険会社の補償内容をまとめて見比べてみると、過不足が見えてきます。下のサービスなら、火災保険の一括見積もりを無料で取り寄せられます。気になる方はチェックしてみてください。
おわりに
「災害に強い家」と聞くと、つい頑丈な建物を思い浮かべます。でも、本当に効いてくるのは、その前後にある「土地選び」と「保険」なんですよね。
リスクの低い土地を選んで、傷みやすいところを基本どおり備えて、残りは身の丈に合った保険で守る。この順番で考えれば、お金を無駄にかけずに、災害にちゃんと強い家になります。
土地をこれから探す方も、もう建てて暮らしている方も、まずは自分の土地のハザードと、今入っている保険の中身を見直すところから始めてみてください。そこが、いちばん確実な”備えの第一歩”になります。
よくある質問
Q1. 災害に強い家にするには、何から考えればいいですか?
まずは土地です。ハザードマップと過去の浸水実態を確認して、リスクの低い土地を選ぶことが、いちばん効きます。そのうえで雨樋や窓など傷みやすい部分を基本どおり備えて、最後に保険でカバーする——この順番がおすすめです。
Q2. 蓄電池は災害対策として入れたほうがいいですか?
必須ではありません。停電時に電気が使える安心感はありますが、費用が高く、元が取れるかは慎重に考えたほうがいいです。「災害のため」という言葉だけで決めず、自分の暮らしに本当に必要かで判断しましょう。
Q3. 火災保険に水災補償は付けるべきですか?
土地のリスク次第です。付けると保険料は1.5倍ほどになることもあります。ハザードマップで水害リスクのある土地なら付けるべきですが、リスクが低い土地なら内容をよく見て検討を。迷うときは、複数社の補償内容を見比べると整理しやすくなります。


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